新潟県魚沼市の山奥にある温泉地、栃尾又温泉。その歴史は非常に古く、奈良時代に仏教僧「行基」によって発見された後、江戸時代には湯治場として利用され、今も心身のメンテナンスを目的とした長期滞在の湯治客が多くみられます。

世界的にも数少ないラジウム泉（放射能泉）は36℃～38℃というぬる湯です。ぬるい湯に約2時間かけてじっくりと長くつかる「長湯」は、体の芯まで温めることができるため、冷え性や血行不良、疲労回復などに効果があり、「子宝の湯」としても知られています。

そんな栃尾又温泉には現在3つの旅館があり、その一番高台に宝巌堂があります。落ち着いた佇まいの木造3階建て和風建築の玄関をくぐると、温もりのある桐材の床とレトロモダンなインテリアが映える、心がほどける穏やかな空間が広がります。

2階と3階にある全7部屋の客室は、昭和を思わせる懐かしさがありつつも、質の高い眠りのためにエアウィーヴの導入や部屋を広くする目的でエアコンを新調するなど、お客様のためを思った心配りに満ちています。

お宿が掲げるキャッチコピーは「心がほどける　五感を愉しむ」です。長年にわたり試行錯誤を繰り返しながら、お客様ひとりひとりが自身を大切にできるような居心地の良い場所を追求しているそうです。お宿に通ってくださる常連の方々が多いのは、その成果と言えるのではないでしょうか。

そんなお宿の特徴としてまず挙げられるのは、今回お話をお伺いした若女将さまとご主人による手料理です。厳選された地場野菜を積極的に使って作られる日替わりのお料理は大変評判が良く、そのお味は新潟ガストロノミーアワードの「温泉文化賞」を受賞するほどです。

ご自慢のお料理に加えて驚いたのが、お客様を敢えて、ほったらかしにしているということでした。例えば、げた箱にはお客様ご自身で靴を入れていただいたり、お部屋に用意された氷がなくなったら自分でフロントまで取りに来ていただいたりしています。

文字にするとお宿が手を抜いているようにも見えますが、携帯電話の電波も届きにくい山奥で静かな時を好きなようにゆっくりと過ごしていただきたい、というお宿の思いからの行動なのだそうです。

もちろん、助けが必要な時は、フロントの鈴を鳴らせばすぐにかけつけてくれるので、ご安心ください。お客様との絶妙な距離感が宝巌堂の魅力の一つです。

館内には「本箱」という陽当たりの良い読書室もございますので、お気に入りの1冊で心の旅を楽しむのもよいでしょう。

作務衣は2000年代初頭に行われた館内の大改築をきっかけに導入が開始されました。

館内外に階段が多く、そしてご年配のお客様も多いため、動きやすく楽に過ごすことができる作務衣があったほうが良いと話し合われ、導入が決まったとのことです。

お部屋のクローゼットにはタオルや浴衣と一緒に作務衣が用意されていますが、近年は圧倒的に作務衣を利用する方が多くなったとのこと。今回はちょうど買い替えのタイミングで、日本製メーカーである和粋庵におもてなしのお手伝いをさせていただけることになりました。

若女将さまとのメールのやり取りの中で「それほど分厚くない」「お手入れが楽」「明るい雰囲気」といったキーワードをいただき、さまざまな商品ラインナップの中から最終的に「クールマックスサッカー生地」を使用したオリジナル作務衣を制作する運びとなりました。

今回はカスタマイズのご希望もいただき、胸元が開かないように衿にボタンをつけたり、お客様がどのような履き方をしても床に裾を引きずらないようにズボン裾を適切な長さに調整するなど、実際にサンプル品を制作し、そちらをご確認いただきながら、ご要望に沿った形を目指しました。

カスタマイズ内容に加えて特筆すべき点は、その明るいカラーリングです。従来お宿で使われていた作務衣にも、明るいお色のものがあったのですが、そちらをご年配のお客様が「着ているだけで気持ちも明るくなる気がするわ」と気に入ってくれたのだとか。

その経験から、今回新調の際も明るいお色をご希望されました。普段の生活の中で明るい色を着ることが少ない人でも、非日常時間を過ごす旅先での気分転換に着てみてはどうでしょうか、というお宿のメッセージが込められていると感じます。

その昔、湯治の目的は体を治し、病気の予防をすることでした。それが時代の変化とともに、自身の心のメンテナンスを行う機会、さらには心身ともにリセットする機会へと進化している、と若女将さまからお伺いしました。

お客様が健康になる過程で和粋庵の作務衣をお召しいただけるチャンスがあるのであれば、それはとても喜ばしいことです。ご宿泊の際はぜひ、お袖を通してこだわりの一着をご堪能ください。